あなたが美しいと思う言葉をひとつ。


いくつか書いた小論文の中でも、特に感情がこもっている文章。

書いているとき、気持ちが入りすぎて思わず泣きそうになったのを思い出す。



” 「みゆ」と自分の名を呼ばれると、私は胸がきゅっとなる。ほんの一瞬だけれど、確かに自分の心が反応するのだ。私は人が人の名前を呼ぶ言葉が美しいと思う。


 私がいう名前とは、名字ではなく下の名だ。一人一人自分の名を持ち、ずっと慣れ親しんできた。一番自分自身に近い言葉であると私は思う。そして、名は人と人の心の距離も表す。初対面でいきなり名だけで呼ばれることはそんなに多くないだろう。学校内や、同年代同士だと、確かにそれ程珍しいことではないかもしれない。しかし、そういう場合は特に、名字で呼ばれると何となく相手が遠い存在に感じてしまう。名で呼ばれる、あるいは人の名を呼ぶというのは、ある意味特別なのだと私は思う。


 高校2年の夏、私は祖母のいる沖縄へ帰った。沖縄の親せきとの再会は、実に7年ぶりであった。しかし、皆に「みゆ」と呼ばれると、なつかしい気持ちと、7年という歳月が一瞬に感じるような不思議な気持ちになった。そして、小さくなった背中を丸めた祖母が、私をみた瞬間「みゆ」といって手を握りしめてくれた。正直、こんなに成長してしまった自分のことを覚えていないかもしれないと不安でもあった。だからこそ、変わらぬ声で私の名を呼んでくれた時は、自分という存在を確かに感じてとても温かい気持ちに包まれた。


 また、私が大学受験にくじけそうになった時、ずっとそばで応援し続けてくれていた親友がいた。強がる私をみて、彼女が「みゆ」といって、ぎゅっと抱きしめてくれた。たった一言の「みゆ」という言葉の中に、私は溢れる程の優しさを感じた。一瞬で心が溶けていった感覚を今も鮮明に覚えている。


 人が人の名前を呼ぶ。その言葉には、気づかない愛や優しさがたくさん詰まっている。それはたった一言で、人の全身を包みこむ程の大きなパワーがある。人を愛で包みこむ名前という言葉は、とてつもなく美しい。”  

2015.01



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